雪花の日記です
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第三日曜日の清々しく晴れた空の下、
蔵馬は彼女がアルバイトをしている花屋へと向かっていた。
実は、彼女が働いているところを見るのは初めて。
ちょっとウキウキとした気持ちは隠しようがない。
通りに面した大きなガラス窓の向こうに、所狭しと並ぶ花々。
手入れが行き届いているようで、どの花もいきいきとして見える。
緊張気味に店のドアを押した。
「いらっしゃいませ!」
二十代半ばくらいの女性が元気な声で蔵馬を迎える。
彼女はいるかと聞いてみたら、何か思い当たったような顔をした。
奥のドアに向かって大声で彼女を呼んだ。
「彼氏来たよ───!!」
ずるっと転けそうになった蔵馬だ。
店の人間に、今日蔵馬がやってくることを宣伝したのだろう。
いや、彼女ならやりかねないと蔵馬は体勢を立て直す。
「あ、蔵馬! いらっしゃいませ!」
ドアの向こうからペットボトルを片手に出てきた彼女。
どうやら休憩中に訪れてしまったらしかった。
「バラの花だったよね、選んで選んで」
バラの花はガラスケースの中に並んでいた。
迷わずに赤いものと白いものとを示す。
「赤いのを10本と、白いのを10本」
「混ぜちゃっていい?」
「いや、それぞれ別に束にしてほしいんだ」
「…花束ふたつ作るの?」
「そう。飾りはいらないから」
花屋勤務でも彼女はきっと知らないのだろう。
バラに限ったことではないが、たとえば花言葉ひとつとっても、
色によって意味が違うなんてことはざらだ。
母の日に贈る花はカーネーション。
今日、六月の第三日曜日は父の日だ。
父の日の花はというと、バラの花なのだそうだ。
白い方は茎の裾を短めに、赤い方は少し長めに残してもらった。
束にするのに邪魔になってしまう茎や葉を落として、
彼女は手際よく花束を作っていく。
ずいぶん昔に蔵馬がこの作業を見たときは確か、
輪ゴムで留めた茎の裾に、
水を含ませたガーゼやらティッシュペーパーやらを巻き付けて、
その上からアルミホイルでくるんでいた気がする。
彼女は輪ゴムの代わりに植物繊維製の紐を使って茎をまとめた。
練習したのかな、なんて思って、蔵馬はつい笑ってしまった。
「白い方、水はいらないから」
「え、しおれちゃわない?」
妖気を通せば水がなくても平気といえばそうなのだが。
「赤い方にだけ、お願いするよ」
彼女は不思議そうな顔をしていたが、
それでも蔵馬の頼み通りにしてくれた。
「ありがとう。今日は何時に終わるの?」
「夕方の5時ー。疲れるぅ」
悲しそうな顔をしたのを見て苦笑する蔵馬だ。
「じゃあ、帰りにもう一度寄るよ。一緒に帰ろう?」
そう言うとぱぁっと嬉しそうに顔をほころばせるのだから単純だ。
店の外まで出て蔵馬を送り出しながら、彼女は最後に聞いた。
「帰りに寄るって、今からどこかに行くの?」
蔵馬は少し、なんとなく、寂しそうに微笑んだ。
「うん…墓参り、かな」
じゃあ、と彼女の返事を待たずに蔵馬は歩き出した。
綺麗な顔の青年がバラの花を抱えて電車に乗り込む、
それだけでかなり人目を引いたものだ。
蔵馬自身にはそんなことはお構いなしだったが。
母親と、義父と、義弟。
それが蔵馬の今の家族。
けれど、実はもうひとり…家族と呼べる人がいた。
母の日には未来に家族と呼べるかもしれない人のことを思ったけれど、
この人は未来には確実にいない、過去の人だ。
盂蘭盆会でも命日でもない今日という日に彼を訪ねるのは初めてだ。
「…やぁ、父さん」
立ち並ぶ墓標のひとつにぽつりと声をかけた。
「オレもこの間初めて知ったんだけど…
父の日に贈る花って、バラの花なんだって」
白いバラの花束を置いた。
「バラはバラでもね、白いバラは亡くなった父親に贈る花だって」
その場にかがみ込んで、手を合わせ目を閉じる。
何か思うことがあるかと思っていたが、
あまりにも頭の中に去来するものがなさ過ぎて笑いたくなった。
瞼を上げる。
「…知ってるかもしれないけど…母さんは」
少し躊躇った。
死という名の旅に出た彼が、
だからといって妻を恨むなんてことがないのはわかっているが。
「仕事先で知り合った男性と再婚したよ…今は元気でやってる、
病気もしないし…オレにも義弟ができたんだ。
生活に張りあいがでてきたみたい」
そうか、と彼の声が頭上に響いた気がした。
納得してくれるだろう。
そう思うのは、残されて生きていかなけらばならない側の、
勝手な都合なのだろうか。
「オレのことも知ってる?
父さんがいなくなったあとで、一度霊界に行きそびれたよ…
笑い事じゃないんだけどね」
だけど、ちょっと笑ってしまう、懐かしいくらいの出来事。
「…あなたたちの息子だと名乗るのはいけないことなのかな…」
父親から答えを聞くことはもうできない。
「…あ、そうだ、ちょっと…照れるんだけど…彼女もいるよ。
この花束、彼女が作ってくれたんだ」
合わせていた手を降ろした。
「…父さんのこと…忘れたわけじゃないよ…」
今の自分を作ったのは、間違いなくこの父とあの母の二人だ。
感謝してる。
声には出さずに呟いた。
赤いバラの花を抱え直して立ち上がる。
「…また…来るよ」
背を向けて、去りかけて…立ち止まり振り返る。
今日言うべき言葉を忘れるところだった。
「ありがとう、父さん」
墓標と白いバラの花束の上に、さらりとした風が吹いた。
街に帰り着いた頃に、
ちょうど彼女のアルバイトが終わる時間が巡ってきた。
花屋に寄ってみたら、待ちかねたように彼女が出てきて
人目も気にせず蔵馬に抱きついてくる。
「…どうしたの?」
「…ごめんね、気付かなくて…」
あとから白いバラの花を父の日に贈る意味を聞いたのだという。
「なんだ、そんなこと」
背の低い彼女の髪をそっと撫でた。
「いろいろ報告してきたよ。彼女がいるって話もした」
「………」
「いつか機会があったら、そのときは一緒に行こう」
蔵馬が思い描くいつかは、父親の墓標の前に彼女と立って、
「結婚したんだよ」という報告をするそのときだ。
「…もう帰れる?」
「うん」
「時間があったら、ちょっと付き合わない?」
「…いいよ…どこ?」
「うち」
「ウチ?」
「先月は母さんに、彼女を連れてきなさいって言われたことだし」
「えぇっ!?」
「日曜だから義父さんもいると思うし」
まずは今の家族に紹介するよと、彼女の手を引いて歩き出す。
夕暮れに沈む街並みに、
じゃれ合って歩くふたりの影が長くのびていった。
---------------------------------------------------
第三日曜日を三時間は過ぎたあとで、
日記の日付だけ誤魔化してお届けします父の日ショート本編。
結局蔵馬から畑中氏へのありがとうは書かずじまい。
ちなみにこれだけ遅れた理由はといいますと、
雪花の父と一緒にこのサイトについてのディスカッションを
繰り広げていたからです。
ええもう本気で討論いたしました。
幽遊白書のファンサイトもドリーム小説のなんたるかも
蔵馬ファン一直線なのも父はみーんな知っています。
ファザコンで言うわけではありませんが、頭の良い方です。
インターネットというメディア、ウェブサイトというものの性質、
二次創作と一次創作について、ドリーム小説という媒体の性質、
もうありとあらゆる観点から雪花のやっていることを全部聞いて、
それに対して評価をくれます。
私の創作に対する、彼がもしかしたら一番の批評者であり、
理解者であるのかもしれません。
そして私自身は、彼の言葉をとても信頼しています。
この親にしてこの子ありを地でいく父子だと自分でも思います…
父の日ありがとうギフトは五本指のくつしたでした。
喜ばれました。
お父さんありがとう。大好き。
蔵馬は彼女がアルバイトをしている花屋へと向かっていた。
実は、彼女が働いているところを見るのは初めて。
ちょっとウキウキとした気持ちは隠しようがない。
通りに面した大きなガラス窓の向こうに、所狭しと並ぶ花々。
手入れが行き届いているようで、どの花もいきいきとして見える。
緊張気味に店のドアを押した。
「いらっしゃいませ!」
二十代半ばくらいの女性が元気な声で蔵馬を迎える。
彼女はいるかと聞いてみたら、何か思い当たったような顔をした。
奥のドアに向かって大声で彼女を呼んだ。
「彼氏来たよ───!!」
ずるっと転けそうになった蔵馬だ。
店の人間に、今日蔵馬がやってくることを宣伝したのだろう。
いや、彼女ならやりかねないと蔵馬は体勢を立て直す。
「あ、蔵馬! いらっしゃいませ!」
ドアの向こうからペットボトルを片手に出てきた彼女。
どうやら休憩中に訪れてしまったらしかった。
「バラの花だったよね、選んで選んで」
バラの花はガラスケースの中に並んでいた。
迷わずに赤いものと白いものとを示す。
「赤いのを10本と、白いのを10本」
「混ぜちゃっていい?」
「いや、それぞれ別に束にしてほしいんだ」
「…花束ふたつ作るの?」
「そう。飾りはいらないから」
花屋勤務でも彼女はきっと知らないのだろう。
バラに限ったことではないが、たとえば花言葉ひとつとっても、
色によって意味が違うなんてことはざらだ。
母の日に贈る花はカーネーション。
今日、六月の第三日曜日は父の日だ。
父の日の花はというと、バラの花なのだそうだ。
白い方は茎の裾を短めに、赤い方は少し長めに残してもらった。
束にするのに邪魔になってしまう茎や葉を落として、
彼女は手際よく花束を作っていく。
ずいぶん昔に蔵馬がこの作業を見たときは確か、
輪ゴムで留めた茎の裾に、
水を含ませたガーゼやらティッシュペーパーやらを巻き付けて、
その上からアルミホイルでくるんでいた気がする。
彼女は輪ゴムの代わりに植物繊維製の紐を使って茎をまとめた。
練習したのかな、なんて思って、蔵馬はつい笑ってしまった。
「白い方、水はいらないから」
「え、しおれちゃわない?」
妖気を通せば水がなくても平気といえばそうなのだが。
「赤い方にだけ、お願いするよ」
彼女は不思議そうな顔をしていたが、
それでも蔵馬の頼み通りにしてくれた。
「ありがとう。今日は何時に終わるの?」
「夕方の5時ー。疲れるぅ」
悲しそうな顔をしたのを見て苦笑する蔵馬だ。
「じゃあ、帰りにもう一度寄るよ。一緒に帰ろう?」
そう言うとぱぁっと嬉しそうに顔をほころばせるのだから単純だ。
店の外まで出て蔵馬を送り出しながら、彼女は最後に聞いた。
「帰りに寄るって、今からどこかに行くの?」
蔵馬は少し、なんとなく、寂しそうに微笑んだ。
「うん…墓参り、かな」
じゃあ、と彼女の返事を待たずに蔵馬は歩き出した。
綺麗な顔の青年がバラの花を抱えて電車に乗り込む、
それだけでかなり人目を引いたものだ。
蔵馬自身にはそんなことはお構いなしだったが。
母親と、義父と、義弟。
それが蔵馬の今の家族。
けれど、実はもうひとり…家族と呼べる人がいた。
母の日には未来に家族と呼べるかもしれない人のことを思ったけれど、
この人は未来には確実にいない、過去の人だ。
盂蘭盆会でも命日でもない今日という日に彼を訪ねるのは初めてだ。
「…やぁ、父さん」
立ち並ぶ墓標のひとつにぽつりと声をかけた。
「オレもこの間初めて知ったんだけど…
父の日に贈る花って、バラの花なんだって」
白いバラの花束を置いた。
「バラはバラでもね、白いバラは亡くなった父親に贈る花だって」
その場にかがみ込んで、手を合わせ目を閉じる。
何か思うことがあるかと思っていたが、
あまりにも頭の中に去来するものがなさ過ぎて笑いたくなった。
瞼を上げる。
「…知ってるかもしれないけど…母さんは」
少し躊躇った。
死という名の旅に出た彼が、
だからといって妻を恨むなんてことがないのはわかっているが。
「仕事先で知り合った男性と再婚したよ…今は元気でやってる、
病気もしないし…オレにも義弟ができたんだ。
生活に張りあいがでてきたみたい」
そうか、と彼の声が頭上に響いた気がした。
納得してくれるだろう。
そう思うのは、残されて生きていかなけらばならない側の、
勝手な都合なのだろうか。
「オレのことも知ってる?
父さんがいなくなったあとで、一度霊界に行きそびれたよ…
笑い事じゃないんだけどね」
だけど、ちょっと笑ってしまう、懐かしいくらいの出来事。
「…あなたたちの息子だと名乗るのはいけないことなのかな…」
父親から答えを聞くことはもうできない。
「…あ、そうだ、ちょっと…照れるんだけど…彼女もいるよ。
この花束、彼女が作ってくれたんだ」
合わせていた手を降ろした。
「…父さんのこと…忘れたわけじゃないよ…」
今の自分を作ったのは、間違いなくこの父とあの母の二人だ。
感謝してる。
声には出さずに呟いた。
赤いバラの花を抱え直して立ち上がる。
「…また…来るよ」
背を向けて、去りかけて…立ち止まり振り返る。
今日言うべき言葉を忘れるところだった。
「ありがとう、父さん」
墓標と白いバラの花束の上に、さらりとした風が吹いた。
街に帰り着いた頃に、
ちょうど彼女のアルバイトが終わる時間が巡ってきた。
花屋に寄ってみたら、待ちかねたように彼女が出てきて
人目も気にせず蔵馬に抱きついてくる。
「…どうしたの?」
「…ごめんね、気付かなくて…」
あとから白いバラの花を父の日に贈る意味を聞いたのだという。
「なんだ、そんなこと」
背の低い彼女の髪をそっと撫でた。
「いろいろ報告してきたよ。彼女がいるって話もした」
「………」
「いつか機会があったら、そのときは一緒に行こう」
蔵馬が思い描くいつかは、父親の墓標の前に彼女と立って、
「結婚したんだよ」という報告をするそのときだ。
「…もう帰れる?」
「うん」
「時間があったら、ちょっと付き合わない?」
「…いいよ…どこ?」
「うち」
「ウチ?」
「先月は母さんに、彼女を連れてきなさいって言われたことだし」
「えぇっ!?」
「日曜だから義父さんもいると思うし」
まずは今の家族に紹介するよと、彼女の手を引いて歩き出す。
夕暮れに沈む街並みに、
じゃれ合って歩くふたりの影が長くのびていった。
---------------------------------------------------
第三日曜日を三時間は過ぎたあとで、
日記の日付だけ誤魔化してお届けします父の日ショート本編。
結局蔵馬から畑中氏へのありがとうは書かずじまい。
ちなみにこれだけ遅れた理由はといいますと、
雪花の父と一緒にこのサイトについてのディスカッションを
繰り広げていたからです。
ええもう本気で討論いたしました。
幽遊白書のファンサイトもドリーム小説のなんたるかも
蔵馬ファン一直線なのも父はみーんな知っています。
ファザコンで言うわけではありませんが、頭の良い方です。
インターネットというメディア、ウェブサイトというものの性質、
二次創作と一次創作について、ドリーム小説という媒体の性質、
もうありとあらゆる観点から雪花のやっていることを全部聞いて、
それに対して評価をくれます。
私の創作に対する、彼がもしかしたら一番の批評者であり、
理解者であるのかもしれません。
そして私自身は、彼の言葉をとても信頼しています。
この親にしてこの子ありを地でいく父子だと自分でも思います…
父の日ありがとうギフトは五本指のくつしたでした。
喜ばれました。
お父さんありがとう。大好き。
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